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最高裁判所第三小法廷 昭和24年(れ)1795号 判決 1949年11月08日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人岩田源七の上告趣意第一点について。

しかし本件公判請求書記載の公訴事実を見ると、本件は明かに被告人が麻藥を輸送した事実について起訴されたものであり、原判決は右の事実について審判を下しているのであるから、両者の間に喰い違いはない。尤も第一審判決書記載の摘示事実は、被告人が判示麻藥を自ら運搬し又は運搬せしめて、三重縣知事がする右麻藥の没收を妨げた、というのであり、原審公判廷において立会檢事は、第一審判決書記載の被告事件を陳述したというのであるから、原判決が審判した事実はそれとは相違するような観を呈するけれども、それにしても麻藥運搬という同一事実を、それ自体として観るか、没收を妨げる手段として観るかの相違に過ぎず、結局は同一事実の判断の外ならない。何れの点から考えても、原判決には、所論のように、起訴以外の事実を審判したという不法はない。論旨は採用できない。

同第二点について。

しかし昭和二〇年厚生省令第四四号第一條は、麻藥取締という立法の目的に鑑みて、塩酸ヂアセチルモルヒネ及びその製剤の輸送を、国の内に於けると外に対するとを問はず一般に禁止する趣旨であること明かであって、そのいわゆる「輸送」を、所論のように海外取引に付ての輸出入に限ると解すべき根拠は少しもない。それ故に原判決が、本件の犯罪事実に右の法條を適用したのは正当であって、所論のような擬律錯誤の違法はない。論旨は理由がない。

同上第三点について。

しかし上記省令第一條には、「塩酸ヂアセチルモルヒネ及其ノ一切ノ製劑ハ之ヲ所有、使用、破棄、販賣、購入、受贈、分配又ハ輸送スルコトヲ得ズ」と規定されているのであるから、右の麻藥であることを認識しながら、これを輸送すれば、同令違反の犯罪が成立するものと言わなければならない。そうして原判決が確定した事実によれば、被告人に右の認識があったことは明かであるから、仮りに本件犯行の動機が所論のように保管ということであったにしても、これに右の法條を適用したのは当然である。論旨は、被告人に不法輸送の意思がなかったということを論拠として、原判決には事実誤認又は擬律錯誤の不法があると主張しているけれども、擬律錯誤の不法がないことは上述の通りである。事実誤認の主張は適法な上告理由となり得ない。何れの論旨も採用することができない。

同第四点について。

しかし起訴された事実も原審が認定した事実も、縣衛生試験所主任としての職務上の行為とは云えない。又それが職権行為として違法を阻却するということは、原審において主張されていないのであるから、原判決がそれに対する判断を示さなかったのは当然であって、この点において所論のような違法はない。論旨は理由がない。

以上の理由により旧刑訴法第四四六條に從い主文の通り判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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